世の中が家余り状態に気づき中古市場が活性化する中、心配していることがあります。建物の劣化状態や性能がわかる私たちだからこそ、危惧することがあるのです。
国土交通省住宅局住宅生産課が主催・開催している「省エネ等良質な住宅・建築物の取得・改修に関する支援制度等説明会」。福岡では3月上旬に行われたのですが、その冒頭、現存する住宅ストックの姿について推計結果の説明がありました。住宅ストックの総数は約6063万戸、そのうち人が居住している住宅ストック総数は約5210万戸です。つまり、現在住宅として活用されている建物(住戸)の数ですね。
人が暮らす家として捉えた場合、その住宅が持つ望ましい姿の指標としてしばしば三つの性能について語られることがあります。その三つとは、①耐震性 ②省エネ性 ③バリアフリー性 です。この三点は、補助金や減税制度等の要件になっていることからも、リフォームの際には率先して改善し、性能向上を目指すべきポイントになっています。中でも耐震性は特に重要。行政区内の耐震化率をあげるために、各市町村独自の活動を推進しています。逆に言うと、行政区による熱の入れ方も様々で補助金の交付額等に差がみられることもあるのです。
この「耐震性」が危うい住宅が、人が居住している5210万戸の内1500万戸もあるというのです。更に、昭和55年以前建築の戸建・長屋の約4分の3、共同住宅においても約4分の1の合計約900万戸は「耐震性なし」という結果が出ています。昭和56年6月以降に建築された新耐震物件についても、確たる数字は出ていないものの、「新耐震だから大丈夫!」とはとても言えない状況にあることを感じざるを得ません。
このように、耐震性が劣る古い住宅は中古市場における割安な物件としてたくさん存在しています。「現状有姿」という言葉にすべてをくるめられて、そのままでは非常に危険な住宅が、お互いの納得があれば売り買いできる状況にあるのです。業者による買取再販物件としてきれいにリフォームされているケースもありますが、耐震性を確保する工事が施されているかは疑問です。
国交省はこのような状況をどう思っているのでしょうか?これら900万戸を中心に、耐震性が劣る古い住宅は「建替え等による対応」が必須となっています。将来世代に継承できる良質な住宅を供給するためには、このような状態の悪い住宅があってはならないのです。ましてや、今から中古住宅を取得しようとしている買主さんたちが、このリスクを何も知らずに背負うかもしれないなんて、とっても心配です。
安いからと言って、あまり古い物件を視野に入れるのは考え物です。もちろん補強の方法はありますが、思いのほか費用がかさんで本来自分がやりたかったリフォームができなくなることもあります。予算内で、できるだけ状態の良い家を探し出し、自分なりのリフォームで居心地の良い我が家に変えていく…。中古購入ならではの楽しい作業でもありますが、スタートを間違えると、出来上がりが残念な結果になることもあります。
こと耐震に関しては、家族の命がかかっています。将来、地震が起きたときに、近隣の家はビクともしてない中、自分の家だけが倒壊する姿を想像してみてください。その時に後悔しても遅いのです。
築年数と耐震性能について、今一度、考えてみる必要があると思いませんか?