熊本地震による国土交通省の方向転換
2016 年 4 月に発生した熊本地震においては木造住宅を中心に倒壊等の甚大な被害が発生しました。同9月にまとめられた報告書によれば、①旧耐震基準で建てられた木造住宅の倒壊率は高い、②新耐震基準で建てられたものよりも、2000年以降の現行基準で建てられたものの方が倒壊率は低い、③住宅性能表示制度に基づく耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)が3のものには大きな損傷が見られず大部分が無被害であった と、まとめられています。
熊本地震におけるこれら建築物被害の原因分析を踏まえた取組として、国土交通省からは、旧耐震基準の木造住宅における耐震改修、建替え等を促進するとともに、新耐震基準の既存木造住宅についても、2000年に明確化された現行基準に照らして接合部等の状況確認を推奨する姿勢が示されました。
阪神淡路大震災で確認済みだったはずなのに
2000年に盛り込まれた接合部の仕様等に関する規定は、阪神淡路大震災における木造住宅の被害状況を調査し、その原因分析を行った結果が元になっています。その時点で、新耐震基準で建てられた木造住宅であっても、倒壊の恐れがあると判断されたわけです。たとえ耐震壁の量が足りていたとしても、接合部の仕様が好ましい状態になければ意味がないと結論付けたはずでした。2000年以降の現行基準で建てられた木造住宅でなければ、旧耐震だろうと新耐震だろうと、耐震補強の必要性を否定できない状態です。
それなのに、各市町村が制定した耐震補強補助金制度の対象は旧耐震物件のみです。新耐震物件の耐震補強をバックアップする制度はありません。所得税控除や固定資産税控除の対象となるのも旧耐震物件のみ。その代わり、新耐震物件であれば、その耐震性を確認せずとも、地震保険の保険料割引の対象にもなりますし、不動産取得税の減税対象にもなります。既存住宅の瑕疵保険に加入する要件の第一は新耐震基準であること、又は、旧耐震基準であったとしても耐震基準適合証明書の発行ができる物件であることとなっています。
また、住宅ローン減税については、その対象となる木造住宅の築年数が20年以内であることという基本的な要件がありますが、既存住宅瑕疵保険に加入している、あるいは、耐震基準適合証明書が取得できる物件であれば、減税の対象とみなされます。
新耐震基準だというだけで瑕疵保険に加入できるわけですから、耐震性を確保せずとも住宅ローン減税も受けられるということになります。
一体何がしたいんだ?国土交通省は??
中古住宅が流通するときこそ建物の性能向上のタイミングだと言いながら、正確な耐震診断や適切な耐震補強をせずとも減税措置が受けられるようでは、本当に安全で快適な住空間を得ることはできないはずですよね。新耐震基準の危うさに気づいたのなら、もっと真剣な対策が必要でしょうに…。